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執筆者の写真Dr. K. Shibata

伝えるための英語力:日本語話者が英語スピーキングで注意すべき点

更新日:3月15日

なぜ、日本人は英語で主張することを難しく感じるのでしょうか。明治以降の日本の翻訳文化と日本語、教育、社会のあり方から考えます。



「英語で議論する」ワークショップを始めて、あっという間に7年がたとうとしています。


「英語で話す」=「英会話」と思われている日本ですが、一般に、英語が苦手と考える日本人が圧倒的に苦労するのが「あるテーマについて英語で自分の意見を述べる」ことで、その次が「ある事象を説明する」です。なかなか英語が上達しない、と思っている方は、次の点に注意してみてください。例を使って説明してみます。


「社会人入試」を英語で説明する


まず、日本語独特の「社会人」という語彙を、そのまま直訳で日本語に直すことは不可能です。日本では学生や、専業主婦(夫)、在宅で介護をしているなどは「社会」で「活躍」していない人、と見做す傾向にありますが、当然、英語のSociety (社会)には、そんな意味はありません。


このテーマでは、日本語の「社会人」に二つの意味が込められています。一般的な教育課程を終えて、働いた経験がある人、そして、日本では一般的な新大学生より年齢が上であることです。


第二に、日本の大学入試システムに関しても注意が必要です。近年は、日本でも、筆記試験だけで合格する「一般入試」が減少し、私立大学の入試においては「志望理由書」「高校での成績」と試験日の「小論文」「面接」が中心の「総合型選抜」入試が中心となっていることです。


総合型選抜とは?AO入試からどう変わった? 学校推薦型選抜との違いは? 特徴や流れを解説(スタディサプリ進路)


この制度は、最近までAO入試(アドミッションズ・オフィス入試)試験と呼ばれていましたが、欧米諸国では、この方式が主流であり、日本の社会人入試も概ね、この選抜方式に沿って設計されています。したがって、外国人に英語で「社会人入試」制度を説明するためには、これまで日本で主流であった「一般入試」の仕組みと、英語圏における入試の仕組みも意識しながら、このテーマについて説明する必要があります。


第三の注意点は、英語圏では、日本のように、大学や大学院に一定の年齢層の人だけがいるわけではないので、年齢やその人の「身分」によって、特別な受験制度を設けていないことが一般的なことです。それゆえ、外国人に日本の「社会人入試」を説明するためには、年齢・身分を考慮した「特別な受験制度」であることに言及しなければなりません。

もし、社会人入試について、英語で話したいなら、これを簡潔に説明する英語の語彙を用意し、必要であれば、さらに英語の文を繋げていく構成になります。上記の要点を全て盛り込まないと、日本のこの制度を英語で正しく伝えることができません。これに相当する適切な日本語訳を知っていれば、便利ですが、そうでなければ、上記の点を考慮して、自分で英語で説明する必要が出てきます。


「調子がいい」は英語で何と言う?


日本語コミュニュケーションののもう一つの欠点は、話し手が聞き手と「文脈を共有している」という前提で、主語や説明を省略してしまい、「何についての話題」なのか、不明な場合があることです。


先日、10代の学生から「調子がいい」は英語で何というの?、と聞かれて、考え込んでしまいました。一般的な挨拶(How are you?)として、聞かれたら、I'm fine (good, ok) で済みます。しかし、「調子がいい」を、単独で使いたいなら、①体の調子、②頭(気分)、③仕事(学習、プロジェクトなど)のうちのどれについてか、「主語」をはっきりさせる必要があるからです。日本語は「省エネ」モードでもあり、主語を省略してしまうことが多いため、ここに関しても注意が必要です。


日本人が英語で意見を述べる場合の注意点


そして、日本人にとって、これよりさらにハードルが高いのが、自分の意見を英語で主張することです。


ここで留意しなければならないのは、日常会話とは別の次元の「現代社会」で使われる多くの言葉は、元々、日本にあったものではなく、その多くが海外から輸入され、日本語に翻訳された「外来語」であることです。日本より数世紀早く近代化を成し遂げた欧米諸国で生まれたこれらの言葉の内実は、厳密にいえば、明治初期には存在しませんでした。その代表的なものが「社会,個人,自然,権利,自由」など、現代人があたりまえのように認識し、それらを享受している事象ばかりです。


翻訳語成立事情 - 岩波書店


この書籍の目次の中には、明治の日本人が翻訳に苦闘した語彙が列挙されています。日本人が英語を話したり、書いたりする場合に、私が特に問題だと思う語彙は以下のものです。上記の「社会人入試」の例でも説明していますが、以下の語彙は英語の用法と日本語で使われている意味の間に、かなりの乖離が見られるケースが数多くあります。


「翻訳語成立事情」 目次から抜粋

1 社会:societyを持たない人々の翻訳法

2 個人:福沢諭吉の苦闘

8 権利:権利の「権」、権力の「権」

9 自由:柳田国男の反発


私は英語で専門教育を受けていますが、これらの語彙が日本語と英語で意味が違うことが多いため、同じ書籍でも、翻訳書しか読んでいない人と話をすると、議論が噛み合わないことがあります。


それゆえ、これらの語彙あるいは関連語を含む事象について意見を述べる場合には、英語が使われている世界で、この事象がどのように理解されているかについて注意を払わずに、日本語世界のフレームワーク(枠組み、前提)で話すと、自分の意図が伝わらない場合があります。よって、日本人がある事象について英語で話す時には、個々の語彙と文脈との関係、英語圏で一般的なフレームワークとの違いに注意を払う必要があります。


最後に、日本人が意見を主張する場合、英語圏で重要な「論理の展開」「レトリック」を使う訓練も必要です。和歌・短歌や俳句の伝統から、日本語による文学表現は多彩で豊かである一方、英語並びに他ヨーロッパ言語が得意とする西洋哲学がベースの「哲学的思考」による論理展開は、日本語には馴染みにくい現実があります。これは多くの哲学的用語が翻訳語であること並びに日本語独特の上記にあげたような「モード」のせいではないかと、私は考えます。


それゆえ、日本語世界で「主張」をする場合に、一般的には決まった型が無く、正式な論文を除けば、私たちが普段見たり、聞いたりする日本語は、どこが重要ポイントなのか、分かりにくい場合が多々あります。一方、英語では、主張には「型」があり、コンテンツさえ、しっかりしていいれば、たとえ発音などが流暢でなくても、発話者の意見は、レスペクトをもって受け止められます。


文部科学省 新学習指導要領「外国語」


日本語話者というハンディキャップにもかかわらず、グローバル化の急速な進展のもと、日本でも英語の重要性は高まるばかりです。時代の要請に対応して、文部科学省は2020年以降、小学校と中学校の学習指導要領「外国語」を相次いで改訂しています。改訂のポイントは以下のとおりです。


現行学習指導要領の「外国語」では、複数の技能(領域)を統合した言語活動の充実を図ることが目指されています。また、知識や技能の習得だけでなく、コミュニケーションを行う目的や場面、状況等に応じた言語の運用を考える中で思考力、判断力、表現力等の育成も求められています。

日本英語検定協会


この変更を受けて、実用英語技能検定が大幅にリニューアルされました。筆記試験の問題で、Reading問題の設問数が減る一方、全階級で英作文が現行の1題から2題に増え、1・2級では英文要約問題、準2級-3級では「Eメール」の設問が追加されています。


2024年度 実用英語技能検定(英検) 問題形式リニューアル


チャレンジを克服する「英語スピーキング」


Global Agendaは春休みに向けて、複数の講座を準備中です。その第1弾として、英検準1級のスピーキング試験をもとに、上記の問題点を踏まえて、日本語話者がチャレンジを克服するための「英語スピーキング」ワークショップを企画しました。概略はは以下のとおりです。


チャレンジ克服「英語スピーキング」ワークショップ


日時: 2024年3月25日(月)20時から21時30分(90分)

場所:オンライン

内容: 講義+スピーキングのワークショップ。英検準1級の過去問をもとにIELTS/TOEFLにも対応した内容に編集。従来の「英語ペラペラ幻想」にもとづく、どう話すのかではなく、英語で何を話すのかにフォーカスしたワークショップにする予定です。当初は英検2級の問題を検討していましたが、英検2級満点は、英語が母国語の人の10-11歳の言語運用能力とほぼ同等なので、レベルが低すぎると考え、準1級に設定しました。

対象:中学生~大人

費用:5,000円~5,900円


申し込みその他は以下のサイトからご確認ください。


チケット


【ミニ講義&ワークショップ】英語スピーキング力を伸ばす(新英検&IELTS対応)3/25(月)20時@オンライン|

 

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参考資料


建設的な議論をするために:言葉の「定義」に注意を払う|Global Agenda”グローバルなコミュニュケーション能力とは何か?”


外国語学習の科学: 脳科学からのアプローチ|Global Agenda 最新の脳科学の知見から効果的な英語学習法を知る

 


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