移民は少子化社会「日本」の救世主になるか?
最近、英エコノミスト誌が、近年、中国からの国外脱出を試みているのは、海外の大学でテクノロジー関連の教育を受け、都市部で年収数千万円以上を稼ぐエリートたちであるというPodcastを発表しました。
彼らの行き先の人気ナンバー1が日本なのだそうです。彼らが国外に「脱出する」理由は複数ありますが、中国における言論や行動の自由の規制による将来への不安が最大の要因です。ゼロ・コロナ対策がそのとどめの一撃だったようですが、それより以前に彼らがロール・モデルとしていたアリババ創業者ジャック・マーが一時、中国の表舞台から姿を消すなど、自由にビジネス活動をして収入を上げていくという将来への期待や夢が持てなくなったこと、そして、教育でもデジタル空間でも欧米流の自由なエンタメ文化は「悪」であるというナショナリズムの深化に耐えられなくなったのも原因のひとつなのだそうです。
また、中国特有の制度ですが、農村部出身の人間の子弟は都市部での戸籍を得なければ、都市出身の子弟と同じ学校で教育を受けられないといった理由もありました。インタビューを受けた人物は、欧米諸国に比べて、投資ビザが容易に取得できるという理由で、年収が1/4になるにもかかわらず、日本移住を決めました。
しかし、日本では、テイラー・スイフトのコンサートに出かけたりして「普通の生活」が送れること、競争の激しいIT業界で年齢が上がり、生産性が落ちればリストラの可能性もある中国と比較して、社会保障も整っている日本で安心して子供を持てること、中国の生活で経験した指導者の度重なる政策変更による未来への不安感が日本では払拭されたことで、移住の決断に大変満足している、むしろもっと早く実行すればよかった、というエピソードが紹介されていました。
日本には、彼らと同じような中流(日本の感覚では超エリート)層の若い中国人は少なくないそうです。たとえ、現在年収が非常に高くても、自由と将来への安心がなければ、家族を作る気にはなれないという彼らの話を少子化が進む日本で聞くのは皮肉だ、とエコノミスト誌の記者はコメントしていました。
Why are Chinese people running to Japan?
この日本在住の中国人エリートへのインタビューはわが国の少子化対策、経済政策、移民政策を考える上で、非常に示唆に富む内容だったと思います。ここから言えることは、自民党や維新の会が進めているような新自由主義的な競争促進に基づく労働政策や、保守層が主張する「国民の一体感」を高めるといったナショナリズムの奨励は少子化には逆効果である、ということです。そして、「円安」という逆風はあるにせよ、欧米諸国で移民の制限を求める国民感情の高まりで移民の受け入れが厳しくなっている昨今、日本経済に貢献してくれる能力の高い移民候補は少なくない、ということです。
第二次世界戦後、敗戦により日本人が得ることのできた「自由」と、戦後の社会運動の高まりにより獲得した「社会保障を受ける権利」。私たちが、空気のように考えているこれらの遺産を簡単に手放してはいけない、と思わされたPodcastでした。
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