次回朝英語の会の「何処で働くか」Workplaceについての議論です。
日本は先進国の中では著しく通勤時間の長い国として有名です。そのため、以前から大手企業が郊外でサテライトオフィスを開設したり、自宅勤務を許可する流れがありました。しかし、近年、以前にも増して、Workplace ー「どこで働くか」の選択肢と重要性が議論されるようになっています。その理由としては ①共働きが増えたためのワークライフバランスの課題、②IT技術の進化によりリモートワークが容易になった、③グローバル化により違う時間帯や地理的に離れた顧客や取引先とコンタクトする必要性が増えた、④自然環境の良い場所や自宅等で働くことにより生産性が高まることが認知されてきた、⑤オフィスコストの削減、⑥フリーランサーや小規模起業家の増加、⑦コワーキングオフィス等で異業種の人々と接触する機会を増やすことによるオープンイノベーションの促進、などが挙げられると思います。
ワークスタイルの変化を主導する米国では労働人口の25%が何らかの形でリモートワークを経験したことがあるという調査があります。また20代から30代の2人に1人がフリーランサーという状況にもなっており、日本とは大きく異なる労働革命が進展しつつあると言えるでしょう。近年日本進出を果たしたNY発の「WeWork」は明らかに上記の⑥と⑦を目指していると言えます。
成人であれば、恐らく起きている時間の3分の1(勤務時間の長い人なら2分の1)以上を費やすであろうWorkplaceの環境(ロケーション・デザイン・一緒に仕事をする人々)は非常に重要です。またIT時代とはいえ、Face to Faceのコミュニュケーションの重要性を強調する「WeWork」のようなベンチャーが米国発なのも示唆に富んでいると言えるでしょう。近代における「都市」の役割の中で人と人が自由に出会う「公共性」Public Space(広場やカフェ)は様々なイノベーションや政治的改革を生み出してきました。コワーキングスペースの隆盛は新たな準公共空間の出現と言えると思います。
一方、ホームオフィスで働く人々も増加の一途です。様々な調査でリモートワークは生産性を増すことが指摘されながらも、負の側面を指摘する調査結果もあります。代表的なものが以下の「The Times」の記事で「仕事とプライベートの区分けが難しくなった」「勤務時間が逆に長くなった」といったものです。
https://www.timeslive.co.za/news/sci-tech/2017-10-04-remote-working-works--but-the-off-button-can-be-hard-to-find/
また、長年リモートワークを推進してきた大手のIBMやYahooが自宅勤務の方針を変更したというニュースもありました。その理由は上記の⑦に近く、社員同士が顔を合わせることで生まれるイノベーションやチーム力の強化を狙ったもののようです。
https://qz.com/924167/ibm-remote-work-pioneer-is-calling-thousands-of-employees-back-to-the-office/
社会心理学者のRon Friedman 博士は著書"The Best Place to Work: The Art and Science of Creating an Extraordinary Workplace"(2015)の中で工業化社会においてWorkplaceを以下のように定義しています。
"a central concept for several entities: the worker and his/her family, the employing organization, the customers of the organization, and the society as a whole".
欧米の都市計画の起源は「環境が人間の行動を変える」Environment Determinism に基づいています。19世紀の欧米の大都市では工業化による人口密集による公衆衛生の問題に加えて、資本家に搾取されていた労働者が接触し、情報を共有することにより労働争議や暴動が頻発することになります。このような社会不安(民主主義への移行期)を受けて、政府や資本家から諮問された都市計画の専門家達は「都市スラム等の劣悪な住環境に住んでいるから、労働者が暴動などの『モラルに反した行動』をするのだ」と結論づけ、スラム地区の住環境の改良、低所得者の為の社会的住宅の建設や公園の整備などに取り組む事になります。
また、人間の行動の97%は無意識のものだという調査結果もあり、仕事場や住居の環境が私たちに与える影響は見過ごせません。このような事情も意識しながら、ぜひ次回の朝英語の会を楽しんで頂きたいと思います。